世界は紅葉の季節を迎えていた。 ここブリストルも町中の木が赤や黄色に少しずつ染まり、ブリストルで最も活気づいている”レンガ通り”の地面に鮮やかな橙色のカーペットを作り出していく。 真っ赤に燃える空が地面、人、町全体を赤に染める。少し吹く風が心地よい。 レンガ造りの家が幾つも並び、夕食準備のため火を燃やしているのだろうか、幾つかの家の煙突から煙がでていた。 夕方の時刻とはいえ、人通りはかなり多かった。老若男女様々な人が買い物や帰宅目的の為通りを歩いていた。 4,5人のボールを持った子供のグループがはしゃぎながら帰宅のため路地裏へ走っていった。 そんないつもと同じレンガ通りの広場のいくつかあるベンチの1つに、同じ年頃の2人の少年が座っていた。 1人はぼさぼさの黒髪に橙色の目をしている背の高い少年。どこか西部の開拓時代の旅人を思い出させるような服装をしていた。 もう1人は薄い色をしたツンツンの茶髪を肩ほどまでさげた蒼い目の少年。少しくたびれ気味だが動きやすそうな服。 2人は誰も見向きもしないような路地裏と通りのある1軒の店を見ていた。 …まるで誰かが来るのを待っているように…。 やがて日も暮れ、空はだんだん暗くなるにつれて人通りも少なくなっていった。 レンガ通りの店という店が閉店の準備をし始めた。 この通り唯一のパン屋「ブランジェリー」も例外なく閉店準備を始めていた。 少年二人は、ずっと閉店準備を進める体格の良いブランジェリー店長と汚い路地裏を見つめていた。 「来るぞ、ジャック」 黒髪の少年…ティルディ・リブリッツが突然口を開いた。 ジャックと呼ばれた蒼い目の少年…ジャック・プレヴェールが黙って頷き立ち上がる。 ジャックはそのまま路地裏の死角に向かい、そこから路地裏の様子をうかがう。ティルディは座ったまま動かなかった。 まもなく、路地裏から1人の子供が出てきた。 彼はお世辞にもあまり良い印象は持てない、ぼろぼろの服装をしていた。 注意深く辺りを見回しながら日の暮れた薄暗いレンガ通りを裸足で駆ける子供は雑貨屋、武器屋を過ぎパン屋「ブランジェリー」まで来た。 まだ少しいる町の人は子供の存在に気づいてはいなかった。 むしろ「見てはいけないもの」と見なし、視界から排除しているようにも見えた。 子供はブランジェリー店長の様子をうかがっている。店長は片付けに集中していて子供に気づいていないようだ。 そして一瞬の隙をつき、子供は一番手短にあった一番大きいパンをもって逃げ去った。 「おい、何やってるんだ?!…待て!!」 やっと気づいた店長が怒鳴り声を上げる。 …ジャックが子供に向かって走り出す。 そのとき子供はパンを抱え風のように走り、路地裏にたどり着こうとしていた。 …もう少しでたどり着く…今日も成功だ。 ところが彼の計画は見事に失敗した。突如手元にあったパンが無くなり。首が苦しい感覚を味わい気がつけば自分より格段に背の高い奴につかまれていた。 自分の計画は失敗した。 敗北感と屈辱感が彼を襲う。 何故?どうして? 今までうまくいっていたのに。 生きていくのに精一杯なのに。 今自分が此処で生きている原因は大人たちのせいなのに何で白眼視されなきゃいけないのだろう。 ジャックは逃げる子供からパンをもぎ取り、体をひねらせ襟首を捕まえて絶対に逃げられない体制を作り捕まえたのだった。 子供はネジが切れたように全く抵抗しなかった。 「よくやったよ、ジャック」ティルディが話しかける。あぁ、とジャックが流した。 すぐに孤児院の担当者が来て、パンを盗んだ子供を引き取って帰って行った。店長が呼んだようだ。 孤児の彼は、ジャックとティルディを鬼のような形相で睨んでいた。 「助かったよ、ティルディ」 ブランジェリー店長がティルディとジャックに報酬を渡す。 「次は気をつけてくれよな」 ティルディがそういいながら帰路につき、ジャックもその後に続く。 太陽は地平線の向こう側に隠れ、ブリストルに夜が訪れる。 少し欠けた2つの月と無数の星が世界を、町を、2人を照らしていた。 ティルディは1人で今日のことを思い返していた。 …また孤児に恨まれた。 路地裏の死角にたつ…これは孤児を油断させるいわゆる不意打ちの1つ。 今日は自分は隠れなかった。 隠れる気にならなかった。 仕事すらしたい気分じゃなかった。 ジャックがパンをひったくって、体の向きを無理矢理変えて、襟首を捕まえて… やっぱり何か間違ってる。 孤児は孤児院に入れば良いと思っていた。 でも…今日のあいつだって捕まえた俺たちを凄く睨んでいた。 この前の孤児だって、そのまえの奴も… 何人こうやって孤児を「捕まえ」たんだろう。 …解らない。 俺は良いことをしてるつもりだった。 でもこんなやり方あってるのか? 「何考え事してるんだよ」 いつまでも話しかけてくれないティルディにしびれを切らしたジャックが聞く。どうやらかなり黙り込んでいたらしい。 「隠し事は嫌いだから…正直に言うけど」 ジャックがおぅ、何だと聞く。 「今の仕事嫌いだぜ…俺の性に合わない。何か間違ってる」ティルディがぼそっとつぶやく。 少しの沈黙の後、 「…へっそろそろそんな事言う頃だと思ってたんだぜ」とジャック。顔に出るタイプだからすぐ解るぞ、と付け加える。 「顔に出るかはおいといて…とにかくこんなやり方で孤児を捕まえたくないんだよ。でも孤児が嫌いになった訳じゃん無いんだぜ」とティルディ。 「そうか…無理してやることもないんじゃないか?この町小さい割に仕事いっぱいあるし。それにあんたはなんでも出来るだろうし」とジャック。 「お、やっと俺のすごさを解ったか?」 …これ以上暗い話題にしたくなかった。無理して笑ってやった。 「…言わなきゃ良かった。自意識過剰!唯我独尊!」 2人は暫く笑いあった後、 「…悩むなんてあんたらしくないな」ジャックが改めて言う。 「わかったよ」素直にティルディが答える。 歩きながらしばらくの沈黙。 ぐぅ。誰かのお腹が大きく鳴った。 「腹減ったぁ」ティルディが突然ぼやいた。 ジャックが笑いながら 「あ、…俺の家今日クリームシチューだな」わざとらしく思い出した。 「食わせろ!」すかさず目を光らせティルディ。 「よーし、キウイフルーツエキスたっぷりかけてやるからな」 「勘弁してくれぇ」死にそうな顔をするティルディ。彼にとってキウイフルーツはこの世で最も嫌いなものの1つだ。 「嘘だっての、食いたいなら速く来いよ、ティル!」ジャックが自分の家に向かって走り出す。 「何だと?足の速さで俺にケンカ売るなんて百年早いぜ!」ティルディがものすごいスピードで追いかけだした。 小さな町に少年2人のはしゃぎ声が響いていた。 これから自分たちの身に起きることも知らずに… 次の日、町は騒がしい朝を迎えていた。 いつも騒がしいが、今日はいつもと様子が違う。 町中の食料品が盗まれた…孤児の手によって。 孤児院にいた孤児までもが逃亡、窃盗を繰り返していた。 止めようとした人たちは孤児が一緒に盗んだ武器で脅されていた。 「おぃ、早く起きろティル!」ジャックが叫ぶ。 ジャックはいつも通りの時間に起床、眠い目をこすりながら町がいつもより騒がしいことに気づき孤児が暴走してることを知る。 そして昨日ティルディと夜更かしをしたことを後悔しつつ支度をすませ、隣のティルディの家に突入しようとしていた。ドアをノックする。 …返事がない。ドアノブをひねると、鍵は開いていた。 「デリカシーの無い奴っ」そうつぶやきながら中に入る。 彼は寝ていた。 大きなフランベルジェ一本、ストーブ、テーブルとベッドしかない小さな部屋で彼はベッドの上でぐっすりと眠っていた。 ジャックは揺さぶったり水をかけたりした。 起きなかった。 けっ飛ばしてみたが、ベッドの足に当たり自分のつま先が異常にいたくなるだけだった。 ティルディはやっぱり起きなかった。 ジャックはあることを思いつき、試しにつぶやいてみた。 「…ティルディ、キウイフルーツ食べる?」 ティルディが突然起きて叫ぶ。 「そんなもん食うかああぁ!」 「お、起きた。効果ありだなっ」ジャックが楽しそうに言う。 「…もっと丁寧に起こせよ」眠そうな目で喋るティルディ。 「けっ飛ばしても起きなかったくせに…ってそれどころじゃねぇんだ!町で孤児が暴走してるんだよ」 「はぁ?…とりあえず待ってろ」 ティルディはそういい残し朝の支度を済ませ、彼が大事にしているフランベルジェを担ぎジャックと共に家を出た。 町では孤児20人ほどがレンガ通りのど真ん中を陣取りナイフやこん棒を手にとって住民たちを脅かしていた。 「21人」ティルディがつぶやく。 「同意」ジャックが短く答えた。 「なんで奴らがこんなことをやってるんだ?」ジャックが野次馬に聞いてみると、  「知るかよ、俺は雑貨屋だが、今朝入荷した薬草はごっそりやられたぞ」 「彼らはいつからこんな暴走を?」ティルディが聞くと、 「さぁな、7時にはあらかた盗まれたな」と答えた。 2人は他の人にも聞き込みしたが、あまり良い収穫はなかった。 「7時頃始まり、食料、薬草、そのほか低級武器。けが人は無し…か。何が目的なんだろう?」ジャックがぼやく。 「とりあえず、彼らの方へいくぞ…場合によっては止める」ティルディが言う。 2人は人混みをかき分け、孤児たちの方向へ向かう。 孤児たちからは若干魔力のオーラが感じられる。 孤児達は2人の気配に反応、手に持っている武器を21人全員が構えた。 「なんだって俺たちに敵対心持つんだよ」ジャックがつぶやく。 ティルディはフランベルジェを、ジャックはグラディウス2つを構える。 「本気になるなよ、彼らの武器をたたき落とすだけだ」ティルディが囁く。 「そんなこと、俺が解らないとでも?」とジャック。 「一応確認だ。…あんたは左へ」ティルディが右方向へ走り出しながら言う。 「了解っと」ジャックが左へ走り出す。 ティルディは一番近くにいた孤児の手元へ剣を振り下ろす。 孤児がティルディの方向を向く。ガキンっと金属音がした。孤児の持っているダガーがティルディの剣を受け止めていた。 ティルディが孤児の目を見る。暗く、生きた感じがしない死んだような目だった。 彼は後ろに飛び、体勢を立て直す。再び手元を斬った。孤児が何も言わずダガーで受け止める。再び金属音。 突然孤児がダガーを振り回し、ティルディの腕をかすめた。 「畜生、…孤児とはいえ手加減しないぜ」 少し切れた傷口を見ながらティルディがつぶやく。 ジャックはこん棒を持つ孤児に接近、一気に間合いを詰めて左縦切りでこん棒をたたき落とそうとした。 1メートル手前で孤児はジャックの方を初めて見て、こん棒の持ち手と端を持ちグラディウスを受け止める。金属音がしたあたり金属製のこん棒のようだ。 その行動と反射神経に驚きつつも、振り向きざまに横なぎに剣を振った。 ガキンっと金属音がする。またもこん棒で受け止められた。 「調子に乗るなっ」ジャックが思わずつぶやく。 ワンステップ後ろに飛び、孤児の懐に走り込んだ。孤児がこん棒を構える。 ジャックは剣で斬らず、そのまま滑り込みけっ飛ばして足をすくった。 孤児は見事に転んだ。落としたこん棒にのびる手をギリギリのところでジャックが捕まえる。 そのまま首筋を軽く殴り、昏倒させる。立ち上がらないうちに次の孤児が襲ってきた。 「キリが無いぞ、ティル!この調子じゃ21人はキツい」グラディウスでダガー攻撃を受け止めながらジャックが叫ぶ。 ティルディは先ほど腕を切った孤児のダガーをへし折り、2人を相手にしているところだった。 「畜生、何でこんなに強いんだ!」 表情のない相手。動揺しない相手。 そんな奴と闘ってると更に感情的になってしまう。 いったいどうすれば…? そのとき、ティルディの視界に光線が飛び込んできた。 その光は孤児の左耳をかすめ、孤児は武器を手放しその場に崩れた。 「…?!矢か?」 「感情まかせにしてると片付かないぞ」誰かが言った。 「…誰だよ、あんた」ティルディが孤児の攻撃を受け止めながら聞く。 声の主はレンガ通りの屋根の上にいた。 黒く短いいがぐり頭に、どこまでも深い黒の瞳をもつ長身の男だった。 じゃまにならない程度の肩の鎧にすこし破れたマントと、紺色の兵士の様な服にブーツ。手にはグローブをはめ、左手に弓を持っていた。 彼はティルディの質問を無視して、 「見ろ、孤児の耳にピアスがついてる。あれを破壊するんだ」 ティルディは視線を孤児の耳にむけた。確かに左耳にピアスがついていた。 「ジャック、ピアスだ!左耳のピアスを破壊しろ!」教えてくれた彼に返事をする余裕はない。 「分かった!」ジャックはグラディウス2つを握り直し再び孤児と向き合い、左耳をねらい闘う。 その後は弓矢を持つ彼の協力も加わり、なんとか孤児21人全員の反乱を止めることができた。 最後の1人のピアスをジャックがグラディウスで突き破壊する。孤児は武器を手放し、崩れ落ちた。武器とレンガがぶつかり合う音がした。 「…ふぅ」ジャックが剣をおろしため息をつく。 「つかれたぁ〜」とその場に座り込むティルディ。 弓矢の男をはそれを見て、洗濯物を干すワイヤーを伝い、滑り降りて着地した。 「ご苦労。…名乗り遅れたな、俺はバレット」 「俺はティルディ…おまえ、名乗るのがおそす…いてっ」 「ジャックだ」ティルディのブーツを踏みつけティルディの発言を制ししつつジャックが名乗る。 「ティルディにジャックか」バレットが答える。 「…よくピアスがついてるって分かったな」ティルディが軽く皮肉を込めて言う。 「戦場ではそのことに気づくぐらい冷静であるべきだ。常識だぞ。 フランベルジェをもってくるとはどういう事だ?もっと考えろ。その武器は斬ることには向いてないことぐらい分かってるだろう? …そうそう、孤児院にはもう連絡を入れたから心配するな」 淡々と言い残しバレットはどこかへ行ってしまった。 「…冷静であるべき?戦場で正しいのが勝つとでも?『正しい方が勝つ』んじゃねぇぞ、『勝つ方が正しい』んだっての」ティルディがキレ気味になりながら言った。 少しして、孤児たちがぼちぼち起きあがり始めた。 「ここ…どこ?」「何で武器が落ちてるの?」 まもなく孤児院の馬車3台が来て、子供をぞろぞろ乗せて帰って行った。 気がつけば、全て午前中の出来事だった。 「ピアスがついてるって事は誰かにピアス経由で操られてたって事だろう?」ジャックが聞く。 2人はバレットがどこかへ行ってしまった後、この後どうしようと話し合いし、最終的にはとりあえずどこかで休もうという意見で合致、レンガ通りの喫茶店に来ていた。 小さな喫茶店で、客は少なめだった。蓄音機からゆったりとしたクラシックが流れる。 「たぶんそうだな、彼らが勝手に反乱を起こしたとは考えにくい…そんなことより奴の態度が腹立つ…あの上から目線が」 「…そのことは忘れろ。実際年上だし、バレットがいなけりゃ今頃どうなってたかわかんないだろう?」カフェラテをすすりながらジャックがなだめる。 「だから腹立つんだろうが…っ」カプチーノに口を付けたティルディが窓から外を眺めながら吐き捨てるように言う。 先ほどけっこうなごちゃごちゃがあった割にはいつもと変わらない町並みだった。 「武器の詳しさと狙撃の制度からして、軍隊っぽいな」ジャックがひとりごちた。 「あんな突然現れて突然消えるのが格好いいと思ってる奴なんて大っ嫌いだ!鎧つけてるし」ティルディがまた皮肉を漏らしていた。 コーヒーの苦みとクラシックが2人を癒していく。ため息をつきたくなる雰囲気。 …あんな男なんて忘れようか。クラシックを聴いているとそんな気持ちになった。 「…ジャック、何でそういや今日聖剣と魔剣を持って行かなかったんだ?」ティルディがジャックに聞く。 「うん?…あぁ」 少し黙っていたジャックをティルディは答えを待ち続ける。 「…あんなすげぇもの、孤児に使うにはもったいない気がしてさ。大ぶりだし」 「あぁ…そうか。そうだよな」ティルディが納得したように答える。 2人の沈黙を、喫茶店のクラシックが埋め合わせていた。 何か考え込んでいたティルディだが、 「……行こうか」カプチーノを飲み干し席を立つ。ジャックも立ち上がり、鑑定を済ませて2人は喫茶店を出た。 平日の昼下がりは2人にとって最も暇な時間だった。 久々に町巡りでもしようか、とティルディがそう提案、ジャックが特に反対しなかったので2人は町を歩いていた。 レンガ通りはいつも来ているので、「2番街」と呼ばれている広場にいくことにした。2人ともあまり来たことは無いので、店を物珍しそうに見ていた。 レンガ通りの武器屋は孤児にごっそり在庫を盗まれ、営業どころじゃなかったので、2番街の鍛冶屋に来てみた。 それほど古くも新しくもない…勿論レンガ調の建物。看板には「ラザフォード」と書いてあった。 入ってみると、もの凄い数の武器…特にナイフが多く並べてあった。 「おぅ、来たのか」鍛冶屋の店長がなれなれしく話しかけてきた。 「何でこんなにナイフが並べてあるんだ?」 「あぁ、俺の弟子が作ってるんだよ」店長が言う。 「銘ナイフか」ジャックがつぶやく。 「なぁ、オレの事呼んだ?」店の奥からそんなことを言いながら誰かが出てきた。 明るツンツンめの茶色の髪の毛と同じ色の瞳、黒い長袖を腕まくりをしてその上に水色の上着を着ている。すこし焦げた白い作業ズボン。 誰が見たって鍛冶屋の息子という感じだった。首から何故かゴーグルを提げていた。 彼はティルディとジャックをカウンターごしに見上げるとこう言った。 「よっ。元気?」 その台詞に2人は疑問符を浮かべる。 「なぁ、ティル。こいつ俺たちとあったことあるっけ?」 「ない」即答するティルディ。 「オレはアスタル。オマエらは?」そんなアスタルの質問を、 「お前は裏で鍛冶してりゃいいんだよ、戻りな」店長が遮ってしまう。 んだよ、呼ばれたと思ったから来たのに…そうぶつぶつ言いながら彼、アスタル・オックスフォードは店の裏に消えていった。 「…すまない、あいつ世間知らずだからよ」 店長の詫びに2人は全くかまわないと言った。 「ま、ゆっくり見てってくれ。ナイフは他のところより安いから」 その少し後。 2人は店を出てきた。ティルディは手に小さめのナイフを一本持っていた。 「そんなもの買ってどうするんだ?」 「果物ナイフにちょうど良いと思ってさ」ティルディが楽しそうに答える。 そんな2人の姿を光の届かない路地裏から監視している2人の誰かがいた。姿は暗闇で見えない。 「やっぱり孤児ごときじゃダメか」大人の女の声がつぶやく。 「当たり前だろう」男の声がそれに答える。 「じゃぁ次は何にしようか?」 「…そうだな」男がまとっていたローブの左腕を腕まくりした。おびただしい数の呪術を施した後があった。 「ピアスじゃダメだ。召還獣にしようか。あのマジャル人は危険だからな」男が笑いながら言った。
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