翌日。バレットは小さな一軒家の二階から外を眺めていた。 一軒家は街の中央から北東に少し行った辺りで、小さな広場のすぐそばにある。 ブリストルの町は昨日の騒動程ではないが、大分賑わっていた。 まだ日も出て間もないころなのに、既に街は大荷物をもった商人や、店を開く準備をする人でいっぱいだ。 時折冷たい風が吹き、その度に広場の噴水が少し揺らめくのだった。 バレットは目を留めた。この辺りでは珍しいローブ姿の人間がいる。表情はよくわからないが、青い髪と 真紅の目がはっきりと見えた。身の丈150cm程だろうか。背に大きなロッドを負っている。 少女は少し下を向くと、少し肩が揺れ、小さく口を開いた。溜息をついたのだろうか。 少女は視線を上げると、ふらついた足でその場から去った。 バレットは何事も無かったかのように、視線を戻した。 アスタルは早朝からせっせと鍛冶場の仕事をしていた。昨日と同じ作業着を装い、重そうな木炭や鉄など の様々なものを持ち込み、それぞれを棚や箱に詰めていた。顔や手には黒い汚れがびっしりとついていた。 「何でオレばっかり働かねぇといけねぇんだよぅ。」アスタルがぼやくと、鍛冶場の別の方からは 「これで飯食ってんだろ?文句言うな!」といつもの店長の大声が返ってくる。アスタルの気の無い返事。 アスタルははぁと声を漏らすと、窓から外へ目をやった。通りのレンガが朝日で煌いている。何秒か外を 見ていると、はっとなってまた仕事をしようとする。 丁度アスタルが仕事へ戻ろうとして目を離したとき、その通りをローブ姿の少女が歩いていった。 少女は通りを抜け1つの広場へ来ると、背負っていたロッドをベンチへ置いて腰を下ろした。昨日ティル ディ・リブリッツとジャック・プレヴェールが腰掛けていたベンチだ。広場では子供たちが幾人か走り回 っている。と、そこへティルディ・リブリッツとジャック・プレヴェールが会話しながら歩いてきた。 「・・・! まさか・・・」少女は小さな声で言った。 ティルディは昨日と同じカウボーイの様な格好、ジャックはだぼだぼの皮製の服を着ている。 「間違いないわ・・・あの人たち・・・」そういうとベンチに置いていたロッドを腰にかけ、ゆっくりと その二人に近づいていった。ティルディがそれに少し早く気付き、ジャックをおい、と小突いた。ジャッ クは一瞬疑問の色を見せたが、何なのか分かったようだ。 少女は二人の目の前まで来ると、あ、あの・・・と小声を漏らし、 「わ、私、あなたたちを見つけるように言われたのです。」 二人は表情を変えない。意味が分からない。関わらないほうが良いと、二人は思った。 「ある村の司祭様に言われたのです。ブリストルの町にいる二人の少年を探せと。」 二人はやっと困った顔に表情を変えた。 「い、いや・・・アンタ・・・人違――」ジャックが先制し、 「いいえ、司祭様から教えてもらったのです。」少女が遮った。 「と、とにかく家へ来て下さい。すぐですので。」少女が口調を強くした。 二人は少女の勢いに圧され、少女の後をついて行くのだった。 何分歩いただろうか。かれこれ1時間くらいか。その間、珍しくもティルディとジャックは無言だった。 ようやく少女が口を開き、 「ここです。中へ、どうぞ。」と言う。もう街の門まで来ている。南門だ。 何がすぐだ、とジャックが悪態をついたが、ティルディはもう中へ入っていた。 同じ頃、鍛冶屋の裏ではやはりアスタルはせっせと仕事をしている。木炭で火を強めている。 「さぁ、やってみろ。」店長の太い声。はい、と短い返事をするアスタル。真剣さが伺える。 アスタルは、まず火をどんどん強くしていき、そこへきれいに精製した鉄を流し込む。すると20cm程 の型へそれが入り、少しずつ溶け始めた。すでに顔は汗まみれだ。 鉄を溶かしている間に、そばにあった大きな箱からハンマーや、よくわからない道具を幾つか取り出し、 それらをまとめた。アスタルの表情は真剣そのものだ。 やがて鉄が完全に溶け、真っ赤になるとそれを出して高く、大きな音をたてながらハンマーで叩く。少し それをすると、また火に近づけ、また同じことを繰り返していた。 何度かそれをすると、水にそれを入れる。ジュッシュと短く音がし、鉄の塊が硬質化する。それを砥石を 使って磨いたり、削ったりする。 始めてから2時間くらいだろうか。アスタルが口を開き、 「・・・出来ました。」と言う。軍手をはめた両手で出来上がったばかりのナイフを持っている。 店長は無言でそれを取ると、様々な角度から見たり、触ったりする。 店長は白い歯を見せた。ナイフをアスタルに差し出すと、 「・・・いいナイフだ。」とアスタルに言った。アスタルも笑う。 「お前も立派な鍛冶職人になったなぁ。」とうれしそうに付け加えると、 「あ、ありがとうございます!」アスタルもうれしそうに応えた。 アスタルが答えたあとで店長が呟く。 「いつもこれくらい真剣だったらなぁ・・・」アスタルはわー、とか、ひょーう、とか言いながらはし ゃいでいる。 ティルディとジャックは部屋を見渡した。部屋は殺風景だった。まるで引っ越したばかりの家のようだ。 広いとも狭いともいえないリビングルームには白いテーブルと小さな冷蔵庫があるだけ。そこに続いた キッチンも使われている様子は無い。生活をしている家とは思えない。 「いきなり何なんだい?」ティルディが少しイラつきながら聞く。 「最近この辺りで変わったことはありませんでしたか?」少女が応える。 ティルディはちらとジャックを見ると、ジャックもこちらに目を向けた。 「あ、あぁ、あったと言えばあったなぁ・・・」ティルディが戸惑いながら言う。 「アンタは・・・」ジャックが続く。 「あ、すみません。私はセラフィ。セラフィ・テロッサと申します。あなたが・・・ティルディ・リブリ ッツですか?」ジャックに目を向けて言う。 「ティルディは俺だ。」不満そうにティルディが言った。 「待てよ。何であんたが名前まで知ってるんだ?」ジャックが疑問の色を浮かべる。 「一々応えていては埒があかないので、少し話を聞いてください。」 ジャックは不満そうな顔をしたが、おとなしくした。 「私はここブリストルの街で生まれ、その後はある傭兵団の長である父について各地を転々としました。 父の傭兵団はある日いきなり消息を尽き、拠点に残されていた私はぼろぼろになって帰ってきた一人に団 が全滅したことを聞かされました。その傭兵はそこで力尽き、何故どこで団が全滅したのかは分かりませ んでした。」セラフィが真剣に語る。 「母は・・・母さんはいないのか?」ティルディが口を開く。 「母は私が幼い頃に病死したそうです。写真もなく、母との思い出は一切・・・」セラフィが答える。 「あ・・スマン。悪いこと聞いたな。」ティルディが少し慌てて言う。セラフィはいえ、と短く反応する と、また語りだした。 「私はそこから一人で旅をしていたのですが、先週まではある村の司祭様にお世話になっていました。そ して私がその村を出ようとしたときに、その司祭様から予言を言われたのです。」 「予言・・・って何だ?」ジャックが口を開く。 「何か良からぬことが起こる、と。それも大きなことだそうです。詳しいことは分かりませんが、その時 にティルディと名乗る男に会え、と言われました。司祭様の術によってあなたの【イメージ】を理解しま した。だから、あなたたちに出会うことができたのです。」 「何で俺なんだ?」ティルディが聞く。ジャックがちらとティルディを見る。 「分かりません。他のことは、何も・・・」セラフィが弱く言う。 そして沈黙。 窓から見える空は既にうすい赤に染まっている。そろそろ日没だろうか。 「今日はもう遅い。また、明日会おう。」ティルディが丁寧に言う。 「はい、分かりました・・・」セラフィがそう言うと、二人は小さく会釈をして家を出た。 二人は通りを歩いている。もう暗い。店はほとんど閉まり、時々犬の声が聞こえる。 「なぁ。」ティルディが口を開く。ん、とジャック。 「何さっきから黙ってるんだよ?」少し明るく言う。 「いや、あまりにも話が・・・よく掴めないからよぅ。なんつったらいいのか・・・ねぇ。」ジャックは 不安とも戸惑っているとも見える顔をする。 「そんな、ただの偶然だろ?大したことじゃないって。俺たちらしくないぜ?」 「そ、そうだな!じゃ、また明日な!」いつの間にかいつもの分かれ道に来ていた。あぁ、と軽く手を振 り合う。二人はそれぞれ家路につく。街灯が街を小さく明るくしていた。 翌日。ティルディとジャックは揃ってセラフィの家へ出向いた。日は出ているが、まだ肌寒い。街の端で あるだけに、だんだんと人通りが少なくなってくる。レンガが朝日をきれいに反射している。 二人がドアを2回叩くと少女が出てきた。昨日と同じ格好だ。 「昨日言っていた村へ、連れて行ってくれないか?」ティルディとジャックが言う。 少女はあ、はい、とやっぱりという顔で言った。そして 「半日ほどかかりますが・・・」と付け加えた。 「そのつもりだよ。」ジャックが口を開き、ティルディも頷いた。 セラフィはにこりと笑うと、少し待っててください、といい部屋に戻った。 10分程してセラフィが出てきた。特に では、と小さく言い、3人はすぐそばの門を出た。 道中、3人はたくさんのことを話した。まるで昨日の重苦しい雰囲気が嘘のようだ。 「そんときこいつ食ってたメシ吹き出してよー」 「だ、お前がキウイかけたとか言うからだろ」 「ところで、なんでそんなにキウイが嫌いなんですか?」 「・・・なんでだろな。」 こんなどうでもいい話をずっと続けていたが、3人はすっかりと仲良くなっていた。 「そういえば、その杖何なんだい?」ティルディが聞く。 「あ、これは・・・・」少女が続ける。 「これは私の家が代々受け継いでいるもので・・・。私も少しはこれで魔法が使えるんですよ。」 ティルディとジャックがセラフィをくっと見た。 「ま、魔法?あのてぃとりろりーんってのが使えるのか?」ジャックが興奮する。 「いえ、そんなのではありませんが・・・ そ、そんな大したことはまだ出来ないんですけどね。」 「どんなことならできるんだ?」ティルディも興味深々だ。 「物を動かしたり、火を出したりすることなら・・・ 母によると、発動者の魔力や精神に比例して大き な魔法が使えるらしいです。」セラフィも楽しそうだ。 「や、やってみてくれ!」ジャックが頼む。 「俺も見たい。」ティルディも頼む。 「すみません、無駄に使うと疲れてしまうので、今は・・・」セラフィが申し訳無さそうに言う。 「そか、じゃ今度見せてくれよな!」ジャックが慌てて言う。そしてまた会話。 日は、まだ高い。 その頃、バレットはブリストルの町を歩いていた。服装は身軽そうな薄い鎧にマントとブーツ。背には扇 形の布に収まった荷物を背負っている。目は何も映ってないかの様に黒い。 「いい天気だ。」口をほとんど動かさずに独り言をいいながら通りを歩く。 少し歩くと、ブランジェリーと書かれた看板が見えてくる。この通り唯一のパン屋。店を覗ける窓からは 会計の前に立っている若い女性の店員とたくさんのパン、奥の工房が見える。 バレットはベルの鳴る扉を開けて入ると、窓のすぐそばに立ててあったフランスパンに手を伸ばし、それ を2本手に取ってまっすぐ会計へと向かった。何も考えてないのか、考えているのか分からない。 店員が言う間も無く小さな袋から小銭をいくらか出し、それを台へ置く。パンの先が覗いている紙袋を受 け取ると、ベルを鳴らして出て行った。ほんの十数秒の出来事だった。 「何よ、感じ悪ぅい」店員がぼやいた。大体二十歳くらいの整った顔立ちをした女性だ。 「あの人はいつもそうなんだよ。」工房から男が出てきた。昨日片付けをしていた店長だ。 「彼はここの常連でね。いつもフランスパンだけ買うんだよ。話はしないけどね。」店長が棚の整理を始 めながら言う。 「そうなんですか?」店員が返す。どうやら新人の様だ。店長が微笑む。 「どうだいクリス君、新しいパンの試食でも。」エプロンで手を拭いながら聞く。 「あ、はい、喜んで!」クリスと呼ばれた店員が、うれしそうに店長と工房に入っていった。 バレットは座っていた。ブランジェリーから最も近くにある広場の隅のベンチでパンを少し千切って食べ ている。食べるのは遅い。 広場にはたくさんの人がいた。親子連れが多く、犬や猫もちらほら。子供たちは遊んだり、母の腕を掴ん で何かを言ったりしいている。平和な光景だ。 バレットは変わらず無表情だったが、どこか優しい目をしている。ゆっくりとフランスパンを3分の1程 食べると紙袋に戻し、それを持ってベンチを立った。 ―その時バレットの後ろを何かが走りぬけた。何か黒い塊。殺気。バレットはさっと振り向き、紙袋を置 いて背中の獲物へ手を伸ばす。広場にはまだたくさんの人がいる。 「ここでやる訳にはいかない・・・」一人で呟く。 バレットはその「黒い塊」を追うようにして、人気のない広場の裏手の林へと走った。 林の少し開けた所にそれはいた。狼の様だが、「普通の」狼ではなさそうだ。大きさこそ大型犬と同じくら いだが、とても生物のものとは思えぬ殺気で溢れている。首の裏に何か跡のようなものが見えた。 バレットは素早く弓を構えるが、矢を向ける前にそれが飛び掛ってきた。ちっと悪態をつき、左へ倒れた が、右腕に2本の傷ができて血がにじんでいる。鎧も腕までは覆っていない様だ。 バレットはひるむことなく体勢を立て直すが、相手も静止してこちらを狙っている。隙を見せない様に矢 を構え、それを相手に向ける。手に力を入れ、弦がぐぐと唸った時にそれは襲ってきた。同時にバレット が矢を放つ。狼は右脚に体重をかけ、左にかわそうとした。かわした。が、そこへもう1本の矢が飛び、 狼の右首に突き刺さる。とても見切れない早業だった。狼はそのまま着地できずに地面に倒れ、少しのた うった後で静止した。死んだようだ。 バレットが小さく息を吐き、ぴくりともしない狼にゆっくりと近づいた。やはり首の裏に火傷の様な跡が ある。魔方陣だろうか。やがてその跡からジュジュと焦げるよな音がし、砂の様なモノへ変わりながら形 を無くしていった。これにはバレットも驚き、少し表情を変えた。しかし、またすぐに表情を戻し、弓を 収め――なかった。動きを止める。 「私のマンティコアを瞬時に・・・ なかなかやるじゃないですか。」バレットの背後10m程の所に人 間が立っている。全身を大きな灰色のローブに包んでいる。目は隠れていて見えない。 「・・・昨日の子供たちの騒動もお前の仕業か?」バレットが静かに問う。 「はい、その通りです。正確には「私達」ですがね。」男は楽しそうに答える。 バレットは見えないような速さで矢を構え、声のした方へ振り向きざまに放ったが、ローブの男はそこに はいない。 「フフフ、焦らないで下さい。」バレットの背後から声が聞こえる。バレットも動揺している様だ。 「また、会いましょう。」そう言ってローブをばっと払うと、男はその場から消えていた。 バレットがゆっくりと林から出てきた。相変わらず広場は賑やかだ。実際は10分程度の出来事だったが 、バレットにはとても長く感じられた。 バレットがベンチを見ると、自分が置いたはずの紙袋が無い。視線を上げると、布キレの様な物を着てい る少年が見覚えのある紙袋を脇に挟んで走って行き、裏路地へ入っていった。孤児だろう。 小さな溜息をつくと、 「・・・これで四度目か・・・」そう呟いた。 「まだ着かないのかい?」ジャックが切り出した。日は少し傾き、涼しい秋風が吹いている。ティルディ も少し疲れている様だ。道こそちゃんとあるが、辺りは木々が多く、山も見える。かなり郊外だろう。 「いえ、あの山が目印なので、もう見えるはずなのですが・・・」セラフィが前方に見える山を指差す。 山頂の辺りに大きな岩のような物がある。遠くからでも分かるほど大きい。 三人はまたしばらく歩く。が、全く村らしきものは見えてこない。さすがに家ひとつくらい見えてもいい ような所だ。 「村が・・・・・無い・・・?」セラフィが小さな声で言った。え?、と返す二人。 「村が、ありません・・・」今度は二人にしっかりと言う。二人は疑問の色を浮かべる。 「と、とにかくついて来て下さい。」そう言うとセラフィは走り出し、ティルディとジャックも顔を見合 わせながら走った。 少し走るとセラフィが不意に足を止めた。少し後ろを走っていたティルディとジャックも足を止める。二 人は唖然とした。 「村」があったであろう場所には黒い煙が立ちこめ、その下には家が潰れた後や、火が燃え残っている木 材などが山のようにある。そして転がっている死体。ざっと見ただけで20はある。生物の気配は無い。 家の跡は十数個程。奥の方には半壊している大きな建物があった。恐らく教会だろう。 「そんな・・・そんな・・・」セラフィが泣きそうな声を漏らす。ティルディとジャックは言葉も出ない ようだ。セラフィは「元」村をふらふらとしながら歩きまわり、村の奥に見えていた教会まで来た。 教会は他の建物ほどではないものの、もはや原型を留めてはいなかった。扉は歪んでおり、ティルディと ジャックが体当たりをして開けると、通路の少し先に祭服をまとった人間が倒れている。三人がかけあし で近づいて抱き起こすと、顎に髭を多く生やした中年の男性だった。 「し、司祭様・・・」セラフィがその顔を見ながら小さな涙をこぼした。セラフィの言っていた司祭なの だろう。 そのとき教会の入り口で物音がした。ティルディとジャックがさっと振り返ると、そこに人間が立ってい た。髪は黒く、一見東洋人に見える。明るめな黄色いジャンパーを羽織り、下には黒いジーンズを履いて いる。腰には青い柄のソードが収まっている。ティルディ、ジャックそれぞれと目が会った時、その柄に は右手が添えられ、 「キサマらぁぁぁーーーーーーーーー!!!」と剣を抜きながら猛然と走ってきた。いきなりの行動に驚 きつつも、二人は剣を抜いて防御の体勢をとった。その人間はものすごい速さで走ってくると、ティルデ ィ向かってフェンシングのような振り方でその剣で突いてきた。ティルディはなんとか受け止め、そこに ジャックが止めに入った。 「おいアンタ、なんか誤解してるぞ!」剣の音にかき消されないような声で言った。 「とぼけるな、キサマらがここを襲ったんだろぅ!」剣を交えたまま反論する。 「違う、俺たちは今来たばかりだ!」ティルディも必死に言う。 その人間はばっと後ろに下がり、 「・・・それは本当か?」剣を構えたまま聞く。ティルディとジャックは剣を納めて臨戦態勢を崩し、 「あぁ、本当だ。」「襲ったのは俺たちじゃない。」それぞれ訴えた。 その東洋人の様な人間はようやく剣をしまい、表情を穏やかなものに変えた。セラフィは司祭の隣で固ま っている。 「申し訳なかった。」その人間が言った。ティルディとジャックは顔を見合わせたが、 「い、いや、誤解されてもしょうがねぇって。なァ?」とティルディが言った。 「僕はラーヴァと言います。ラーヴァ・ティライトです。」改めて頭を下げ、ラーヴァは名乗った。 「オレはティルディ、んでこっちが」 「ジャックだ。」自分で言いたかったのか、素早く反応して主張した。 「セラフィです。」座ったまま言う。 「ティルディ、ジャック、セラフィ、本当に申し訳ありませんでした。てっきり貴方様方が村を・・・と 。」ラーヴァがとてもおおらかな雰囲気で話す。 「ここじゃ、何だ。外へ出よう。」ジャックが提案し、四人は外に出た。 外は、何も無い闇だった。
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