時を同じくして暗い暗い森の奥深く。 二人の話し声が聞こえた。 “媛に指図など・・・貴様は何様だ” 「いや、俺はただの忠告に来ただけさ。」 “ことによっては貴様を排除する” 暗闇の中から無数の瞳孔が一人の男をにらみつける。 「おおー怖いねぇ。まぁどう受け取るかはあんた次第だ。」 “・・・” 「それじゃ、ここらで退散するとしましょうかね」 再び瞼尾あけたとき、そこには音ひとつなかった。 「ごらぁーー!!」 つかの間の静寂の後、扉を飛ばした物体から再び音が発せられる。 「どこにいるーーー!!!」 土煙が未だ舞っていて確認は出来ないが一応男のようだ。 かなり大柄な体格で熊とも互角に戦えるのではないかと思えるほどの・・・。 「ああっ、扉が・・・」 他の客は突然の轟音の中で唖然としているのに、のんきに店長は扉の心配をしている。 「変えたばかりなのになぁ・・・お客さん、弁・・・」 店長の言葉は侵入してきた男によって遮られた。 「俺から逃げられると思うなよ? 」 「げぇ!!」 今までのことがあってか、対処に困っている客の中、ティルディたちは戦闘準備態勢だった。 しかし、アスタルはあごが外れていた。 「・・・なに?最近流行の顔遊びか?」 “元気ですかー!”などといいそうなアスタルの顔を見てジャックが言う。 「・・・・・・俺の葬儀、できればやってくれ。」 いきなりのアスタルの発言に緊張状態だった雰囲気は多少和らぐ。 しかし、アスタルの顔からは冷汗が絶えない。 “大丈夫ですか?”と聞くセラフィの言葉も聞こえていないみたいだ。 どうやらアスタルは突然の訪問者の正体を知っているようだが。 「おまえ、あいつが誰か知っているのか?」 ジャックが尋ねるが相変わらず聞こえていないみたいだ。 ババッ! 刹那、砂埃の中から剣が飛び出してきて、アスタルへ飛んできた。 「うわぁ!」 アスタルは間一髪で交わすが、今度は後ろに居たセラフィに標準が合わさった。 「ひゃわぁ!」 場違いともいえる声を発してしゃがみこむ。その衝撃で見事にスカートがめくれる。 「・・・・・・・ぽっ」 まさに場違いな店長、ここに登場。 めくれたスカートを見て、顔を赤らめる。 ・・・赤らめる理由が分からないが、ほおって置こう。 「あの野郎・・・排除していいですか?」 もはや侵入者なんかより、大事なものを見られたことへの屈辱のほうに焦点が行っているようだ。 「・・・いや、まだこの店には世話になるだろうし、辞めておけ」 ジャックが仕方なさそうに答える。 セラフィの発する魔力が溢れんばかりなので、なにも言わなければ店長の命はなかったであろう。 「・・・・・・シンニュウシャ、コロス」 「!!!!」 アスタルが驚きの表情をあらわにした。 セラフィの怒りの標準が晴れつつある土煙の男になった。 「おいセラフィ、やめて置けよ、死ぬぞ?」 ジャックの言葉は耳に入ったがアスタルの声は虚しく聞こえなかったようだ。 「汝、セラフィ=テロッサが命じる。我に従え、風の粒子よ・・・」 「で、おいアスタル。あいつは誰なんだ?」 いつもと違う雰囲気を発しながら呪文を唱えるセラフィを諦め、ジャックは侵入者の身元を確認する。 「親父だよ。俺が抜け出したことがばれたんだ・・・」 「・・・・・・」 未だに呪文を唱え続けているセラフィ以外のみなが唖然とする。 店内は9割が唖然としている、なんともシュールな光景だった。 「最近の女の子は大胆だねぇ・・・うん・・・いい時代になったもんだ」 店長は相変わらずのマイペースっぷりで一人呟いている。 「じゃぁ・・・なに、新たな追っ手とかではないわけか」 「そのようだな、まったく、厄介ごとに巻き込まれたかと思ったぜ」 いつもあっている鍛冶屋の親父だと分かった二人を筆頭に、次々に席につく。 周りのお客も騒ぐことなく、いつもの日常に戻っていった。 「おい、何だその反応は!?親父が来たんだぞ?」 「だからなんだよ、別にどうってことないだろ?」 アスタルが慌てているが、なにごもないかのようにティルディが答える。 「やばいやばい・・・逃げないと・・・」 もはや助けが来ないと分かるとアスタルは逃走経路を探す。 「無駄だ無駄だぁ!」 晴れて姿があらわになった鍛冶屋の親父がアスタルに向けて剣を抛る。 「ひぃ!」 また間一髪で交わすアスタル。 未だに呪文を唱えるセラフィ。 平和な日常を堪能するティルディ達。 「おい、セラフィ。一発親父に頼むっ!」 必死にセラフィに頼むアスタルだが相変わらず耳に届かず。 “というかいつまであいつは呪文を唱えているんだ?” とジャック。 「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!!!!」 店内を駆け回るアスタルに追いかけて剣を投げる鍛冶屋の親父。 その親父は今にも時を止めてダンプカーでも持ってきそうだ。 「弾丸となりて、標的を滅せよ!」 ようやく唱え終わったセラフィの杖から次々となにかが発せられる。 その発せられた何かが通った後は地面が削れていた。 そのまま侵入者へ突撃。見事に直撃した。 またもや土煙。 「・・・いい加減にして欲しいのだが」 ジャックが半分切れ掛かっている。それを必死になだめるティルディ。 もはや自分が関するところはないだろうと窓を眺めるリヴォル。 ドドドドドドドド!!! 絶え間なく侵入者へ魔法をぶつけるセラフィ。 「・・・・・・ふんっ!」 数多の魔術を食らったにもかかわらず親父は無傷だった。 「小娘が・・・やってくれるな」 親父も逃げるアスタルを諦め、こちらに覇気を出しまくりのセラフィに標準を合わせた。 「対防御魔法の鎧か何かでしょうか?」 「あ、アンチ・・・なんだって?」 レジ裏に隠れて様子を伺うアスタルが聞きなれないセラフィの言葉を復唱しようとした。 「アンチプロテクトマジック。ようは対魔術用の鎧ってことだな」 「・・・そのままじゃないか?」 ティルディが答えるがジャックが素早く突っ込む。 しかし未だにアスタルは理解できていないようだ。 自信があった魔法をクラって無傷な侵入者にすこし驚き、さらに溢れる魔力が増したセラフィが尋ねる。 「そんなやわな鎧など使わんわ。小娘ごときに使う必要もなかろう」 「言ってくれますね、おじ様」 怒りは収まったセラフィだが、仮にも貴族であったプライドが今度は彼女を引き立てた。 「風の粒子よ、杖に纏て刃となれ」 セラフィが使っていた杖の先に風が纏われ、矛の形になった。 魔法がダメなら切りつけようというのだ。 「・・・親父相手に剣術は無謀じゃないか?」 もはや観戦物となった二人の争いを見てティルディが言う。 “・・・イライラ・・・” ジャックは爆発寸前。それが分かったティルディは止める気なし。 「いえ、専門の魔法を諦めて使うんですから相当自信があるのではないでしょうか?」 そこにすかさずリヴォルが解説を入れる。 「まぁ、お手並み拝見だな」 “俺はあの娘さんな”“なに言ってんだ、ここは鍛冶屋の・・・” “普通に考えたらだな・・・”“負けたら飯奢れよ” 道行く人の中には賭け事にまで発展している人もいた。 「ふん、まぁいい。アスタルでは物足りないからな、相手をしてやろう・・・」 そういうと数え切れない数の武器から大型な剣を取り出した。 「・・・」 片手で柄を持ち、もう片方で刀身を支え、顔の前で横に構える。 「こちらから仕掛けていいってことですね・・・」 そうセラフィが勝手に解釈するとこの地方では見られない異様な型で杖を構えた。 “ふぅ・・・” セラフィが一呼吸つこうとした瞬間、鍛冶屋の親父は突進してきた。 「しまっ・・・」 てっきり攻撃態勢でないと判断していたセラフィは防御に入るが・・・ 相手はすでに剣を振り下ろしていた。 ガキィン! 火花が散った。 防御は間に合ったのだろうか・・・ 再び砂煙が舞う店内を観客達は静かに見守る。 「その辺にしておかないか?」 晴れた砂煙の中には人が一人増えていた。 結局セラフィは地面に頭を抱えて伏せていた。 「・・・あらら・・・我慢の限界か・・・」 ティルディが残念そうに呟く。 その隣にいるはずのジャックがいなかった。 「ジャックか・・・」 親父が自らの振り下ろした剣を受けた相手を見て言う。 「あの状態から凄いですね・・・ジャックさん」 驚きの表情でリヴォルが言う。 「・・・親父、相手は女だぞ?」 受けた剣を振り払いながらジャックが言う。 「なに、ほんの戯れじゃないか」 「自分の腕力とやらを考慮してか?」 「・・・・・・むぅ」 どうやら図星のようだ。 「セラフィも、だ」 そういってジャックが振り向くと 「はぁ・・・はぁ・・・」 顔を真っ赤にしたセラフィが倒れていた。 「・・・・・・・・・・・馬鹿だろ」 そうジャックは呟き、セラフィを抱えティルディ達の下へ歩いていった。 「う〜ん、熱いねぇお二人さん」 そう呟く店長を目で制止させてからセラフィをソファに横にさせた。 「やんちゃなお姫様はどうやらお疲れのようだな」 「そのようだ」 普通に会話するジャックとティルディを傍目にリヴォルが一人慌てていた。 「だ、大丈夫なんですか?顔が真っ赤ですけど・・・」 「なに、ただの魔力の使いすぎだな。心配せずともすぐに目を覚ますさ」 もう自分は関係ないかのようにコーヒーを飲むジャックの変わりにティルディが答える。 アスタルは結局捕まり、連行されていた。 「おーい、ジャックー。なんで俺は助けてくれないんだー」 そんな哀れなアスタルを気にもかけず、いつもの日常が戻り始めようとしていた。 「も、申し訳ありませんでしたぁ・・・」 セラフィがうなだれる。 ティルディ一行は場所を変えようとセラフィが目を覚ますのを待って店を出たのだ。 「さて、どこに行こうか?」 先頭を歩くジャックが尋ねる。 「ヒースロー・・・気になりませんか?」 後方を歩いていたリヴォルが言う。 「確かに気にならなくはないが・・・どうする気だ?」 「というかどちらにしろヒースローに行く以外ないのではないか?」 歩きながら個々の意見を述べる。 そのうちに街の郊外にある大きな公園にたどり着いた。 「わぁ、犬がいっぱいいる」 セラフィが子犬のようにはしゃぐ。 さっきまでの行いなど反省の色が見えない。 「・・・ペットは必要ないんだが・・・」 ジャックが数匹の犬を戯れているセラフィを見てため息混じりに呟く。 「そうは言わずに平和を思いっきり堪能しておきましょうよ」 リヴォルがカバーに回るがジャックの怒りゲージは一向に減ろうとはしていない。 「そういえば・・・バレットはどこにいるんだろう?」 「朝から見てませんねぇ・・・」 「あいつにもあいつの事情があるんだろう、気にするな」 「あ、ボク、あの人気のパン屋でお菓子を買ってきたんですがどうですか?」 「あの“パン屋なのにお菓子のほうが圧倒的においしい”で有名なところか」 「頂こうか」 3人はベンチに腰を掛け、雑談にふけっていた。 「キャンキャン」 一方セラフィは犬達と遊びながら徐々に3人から離れていった。 まるでその犬達がどこかへ誘導するかのように。 「・・・ほぇ?」 子犬と遊んでいたセラフィはいつの間にか森の中までやってきていた。 「こんなところに森なんてあったかな?・・・あれ?」 追いかけていたはずの子犬の姿も見えない。 「うーん、木が生い茂りすぎて空も見えないよ・・・」 時間的には昼をすこし過ぎたあたりだが、周りは真っ暗だった。 「・・・折角だし、探検でもしてみようかな」 自分の状況を考えずこんな発言を出来るのはセラフィだけだろう。 ジャックがいたら万雷が落ちていたに違いない。 鬱蒼と茂る雑草を掻き分けながら奥へ奥へと進んでいく。 やがて、幹のまん中がぽっかり空いた巨木の前にたどり着いた。 「・・・・・・樹齢何日だろ・・・」 まずそんな巨木を見て樹齢を日で計ろうとする人間はいない。 ゆうに数百年の時代を生きて来たに違いないほどだ。 病気にやられた部分や虫に食べられた部分など、時代の流れを感じさせる風貌だ。 「あの穴・・・なんだろ?」 そういうと穴を覗き込んだ。 “媛の領域に踏み込むものは排除する” 「え?」 セラフィなにかを聞き取ろうとした瞬間、鋭く尖ったものが身体を貫いていた。 「がぁ・・・ぁ・・・・う゛・・・」 貫いたものが引き抜かれた瞬間、支えてくれるものがなくなったセラフィの身体は地面へ倒れていった。 “ニンゲンの小娘ごときがここへ来ようとは・・・” 貫いたものの主が姿を現した。 その姿は狐に似ている・・・いや、狐そのものだ。 しかし体は人間以上に大きく見え、9本もある大きな尻尾は風もないのに揺れていた。 そのうちの1本は、黒く、紅く染まっていた。 “先日来たニンゲンの小僧の言うこと・・・誠かも知れぬな” そういうと地面へ倒れる少女へ視線を移した。 “好都合。悪の芽は育たぬうちに排除せねば。・・・こやつをすこし利用して・・・な” 次の瞬間にその場には倒れる少女しかいなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・・おい」 「はい」 「奴はどこだ」 「奴、と申しますと?」 「とぼけるな、セラフィだ」 「・・・そういえば姿が見えませんねぇ」 「“自分が監視しておくから安心して”とかいったのはどこのドイツだ」 「・・・ヨーロッパの・・・」 「誰もボケろと言ってねぇ!!!」 ぱこーーーん! ジャックが思いっきりティルディをすっ飛ばした。 「まぁまぁ、ジャック。彼女も自分の事は自分で出来るでしょう」 「・・・お前はさっきのことを含めてまだそういえるのか?」 なだめようとするリヴォルにも痛い一撃を与える。 「えー・・・と・・・それはそれです!」 「アホか」 苦し紛れの言い訳にも一蹴した。 「ヒトラーあたりが・・・」 「お前はまだそのネタを引きづってるのか」 そう言いつつジャックが覚えている限りでセラフィを追おうとする。 「まあまあ、ジャック閣下。前をご覧に」 にやけた顔でティルディがジャックを促す。 「ごめんね。ちょっと遠くまで行き過ぎちゃった」 「・・・・・・馬鹿野郎」 そこにはセラフィがいた。 「はっはっは。ジャック閣下。顔が真っ赤ですぞ?」 「・・・もう一発くらいたいか?」 「いえ、結構です」 いまだジャックの攻撃から立ち直れないリヴォルは地面に「の」の字を書いていた。 「・・・あれ?セラフィ、頭腫れてない?」 ティルディがセラフィの異変に気づく。 頭のちょうど両目の上あたりにポコンと二つ、こぶが出来ていた。 「あ、本当だ。どこでぶつけたんだろ・・・・・・ん?」 ぐぐぐぐ・・・・ ドンドン頭のこぶは大きくなってやがて ぴょこん! 「・・・・・・耳?」 獣の耳が出てきた。 「・・・変なキノコでも食べたのか?」 ジャックが尋ねる。 ティルディは大爆笑している。 「ちょwwwおまwww獣耳 (笑)」 「・・・・・・え?え?」 耳であることを触って確認する。 「おぉ・・・ふかふかしてるよ」 「いや、それは問題じゃねぇよ」 異常なほどにこの異常事態を危険と思わない二人をあきれた目でジャックが見る。 「で、こんなことが起こりそうな原因になったのは何か分かるか?」 ジャックが原因究明のためにセラフィに尋ねる。 しかし当の本人は 「知らなーい。ってこれ、本当の耳だよ!聞こえるよ〜」 「・・・・・・」 本日二人目。しゃくれあごが今年は流行りそうだ。 「ったく、セラフィは笑わせてくれるな」 「え、いや、そういうことじゃないんだけど・・・」 未だに笑っているティルディに少々セラフィも戸惑ってしまう。 「これ、アスタルにも見せてや・・・」 シャッ・・・・・!! 血飛沫が飛んだ。 「「・・・え?」」 ティルディは頬から腕にかけて5本の傷が、セラフィの右手は紅く染まっていた。 ふたりとも何が起こったか状況がつかめないようだ。 「セラフィ!なにしてんだ!」 一人状況整理を素早く済ませたジャックがティルディとセラフィを引き離し怒鳴る。 「え?いや・・・手が・・・勝手に・・・」 「勝手にじゃすまねぇぞ!」 セラフィが泣きそうな顔になる。 それと並行するかのように 「尻尾が・・・生えてきていますね」 ジャックの怒鳴りで我に帰ったリヴォルが指摘する。 「え・・・?なんで・・・」 セラフィの髪の色のような淡い黄色い尻尾が1本生えてきていた。 「お前、本当にセラ・・・」 ビュン!! 「っと」 ジャックめがけて尻尾が伸びてきた。 間一髪でジャックは避ける。 「“邪魔をするな”」 「なに?」 急にセラフィの態度が変わった。 さすがのジャックでもどういういきさつなのか全く予想がつかない。 「セラフィは操られている・・・と推測してもおかしくなさそうですね。」 「で、その操り主はどこにいると思うんだ?」 「・・・おそらく、彼女の体内かと」 時が止まる。 「なんだよそれ?」 ジャックが怒鳴る。 リヴォルがびっくりしながらも 「・・・分かりませんが・・・おそらくあれは・・・憑依されています」 「は?」 「あの耳、尻尾は狐。・・・九尾の類じゃないかと」 「!?」 ボウゥ!! 轟音とともに大きな火球が目の前に現れた。 「あいつ・・・火系統専門じゃないのに・・・でけぇ・・・」 「言い伝えによると九尾の力は世紀の大賢者をも圧倒する力だとか」 「そんな奴をどうしろってんだよ!」 火球の膨張が止まりあたりは紅色に包まれた。 「ここはボクが!」 そういってリヴォルが防御魔法を唱え始める。 「どうすれば・・・どうすればいいんだ・・・」 ジャックは脳をフルスピードで動かしていた。 「・・・・・・ちょっと待てよ?」 ジャックは気がついた。 全てはリヴォルの推測にしか過ぎなかったと。 「なに、始めから臆していただけじゃないか」 そういうとジャックは抜刀し、構えた。 「ジャックさん?」 「ここからは俺が何とかする」 再び火球を構えるセラフィへと退治する。 木々のざわめきが止まり、無音の時が流れた。 「・・・!」 先に動いたのはセラフィだった。 火球を連続でジャックに向かって放ち続ける。 ジャックはそれを寸前のところで交わしながら距離を縮めていった。 「!・・・!!」 セラフィがいくら火球を放とうとも決してジャックに当たらなかった。 「せいっ!」 火球の流れが止まったところを見抜いてセラフィに切りかかる。 「ジャックさん!?」 無論、ジャック自身も彼女を傷つける気はなかった。 まさか自分の攻撃が当たるとは思っていなかったからだ。 当然のようにあの尻尾で受け止められるだろうと、そう思っていた。 「あぁ・・・!!!」 ぶっしゅっ!・・・・ぼとり。 見事にジャックによって切られた右腕が地面に転がった。 そしてその転がった腕は萌えて消えた。 「ううう・・・」 セラフィが唸り始めると切られた右肩から炎が出てきて次第に腕の形になった。 「・・・再生能力込みかよ」 「へぇ、服は再生されないのですね」 ジャックが嫌な目つきで生えてきた腕を見る。 場違いな発言があるがここはスルーしておこう。 「ま、これで容赦なく切りかかれるってことがわかったな」 「・・・女子供に手出しはしないんじゃないんですか?」 「いや、時と場合というものを考えてだな・・・」 リヴォルの発言によって調子が狂うジャックだが、同時に油断も生まれた。 まさに今だ。 「!!」 セラフィが杖に炎をまとわせて突進してきたのだ。 「そらっ!」 持ち前の反射神経でそれを受け止めるがセラフィのペースであることには変わりがなかった。 キィン、カィン、ギィン・・・!! 一進一退の攻防を突けるがジャックに疲弊の色が見える。 「ちょっとドーピングさせてもらうかな!」 このままでは危ないと感じたジャックは呪文を唱え始める。 するとジャックの足の周囲に風が生まれた。 「そら、そらぁ!」 格段にジャックのスピードが上がって、見事に形勢逆転だ。 セラフィはジャックの剣の速度に追いつけず、身体を切り刻まれ、再生を繰り返していた。 「キリが・・・ないな」 肩で呼吸しているジャックを裏腹にセラフィは平然としていた。 「!!」 セラフィが唸った。 尻尾がよりいっそう大きくなって溢れんばかりの魔力が彼女を覆っている。 「くそっ!」 セラフィが猛スピードで突進してきた。 ジャックの防御が間に合わない。 ガキィン!! 「ったく、かっこつけてんじゃねぇよ」 そこにはティルディの姿があった。 「傷はいいのか?」 「そんな悠長なこと言ってる場合じゃぁ・・・うわ!!」 簡単になぎ払われてしまった。 またセラフィがこちらへ攻撃を仕掛けようとしている。 ジャックがよろよろしながら構えると後ろから影が走っていった。 その影はセラフィ目掛けて突っ込んでいく。 「何だ?」 ドスッ! そのまま防御もしないセラフィの身体にぶつかっていった。 「・・・・・・・!」 呪文のような言葉を発し、セラフィの身体が一瞬光に包まれた。 「全く、ひやひやさせないでよ」 ぐったりとしたセラフィの身体を支えながら陰は言った。 「「リョク!?」」 「どーも、お久しぶり」 セラフィを地面に横にさせながらリョクは言った。 「何をしたんだ?」 今まで暴れたセラフィがぐったりとしているのを見てジャックが尋ねる。 「現況を封印したってところかな」 場の雰囲気など読まずリョクは笑いながら答える。 「そこの坊ちゃん、リヴォルって言ったかな?」 「はい」 リョクはリヴォルを指差しながら言う。 「君の推測は大方間違いじゃないよ。確かに彼女は憑依されていた。化け狐にね」 「九尾・・・?」 「いや、九尾の一部に、ね」 「どういうことだ?」 リョクが淡々と答え続ける。 「理由は知らないが九尾の生み出した小さな化け狐に彼女は取り付かれた。 それで本能のままにあたりを焼き尽くそうとしたんだけど、君達が邪魔をしたって感じかな」 「・・・なぜ九尾が?」 「誰かが仕向けたんだろうね。九尾はもともと人間に危害は加えない」 「わけが分からないな、最近は」 「ま、ボクは楽しいけどね♪」 「う・・・ん」 そうこうしている間にセラフィが目覚めた。 「セラフィ大丈夫か?」 「え?何が?」 寝ぼけつつジャックに答える。 「さっきまで森の中にいたはずなんだけどなぁ・・・・・・あ」 「どうかしましたか?」 「おなかすいた」 ジャックが握りこぶしを隠れて作る。 そしてそれをリヴォルが隠れて抑える。 それを見てティルディとリョクは苦笑う。 「ねぇ、油揚げないかな?」
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